ひまと面目

つぶします

僕のラジオ体操の話

   当社は例年、入社してからゴールデンウィーク明けまでの約一ヶ月間を新入社員研修に費やします。特に最初の二週間は、基礎訓練、新入社員としての心得、ビジネスマナーを叩き込みます。ここまではかろうじて、一般的な話に聞こえるのではないでしょうか。しかし、当社はただの会社ではありません。ツッコミどころ満載のブラック企業です。今日は基礎訓練のひとつ、ラジオ体操の訓練について書きたいと思います。

   みなさんはラジオ体操と聞いてなにを思い出しますか?僕は小学生の夏休み、早朝に集まってみんなで踊ったことや、体育の授業の準備体操を思い出します。私たち日本人は子供の頃からラジオ体操に慣れ親しんでおり、あの音楽を流せばなんとなく踊れる人が多いのではないのでしょうか。しかし当社の新入社員研修では、ラジオ体操の訓練とテストがあります。そこでは僕たちが慣れ親しんできたラジオ体操とは全く違う、キレキレのラジオ体操が要求されるのです。

   まず最初にラジオ体操の教則ビデオなるものを見せられるのですが、演者は明らかに新体操かバレエを極めているような女性が3人。ダイナミックかつしなやかなそのラジオ体操を目にして、新入社員一同は言葉を失いました。そして、そのラジオ体操を型とし、完全に習得することが僕たちに課された使命でした。その訓練風景は異様なものでした。十数名の若者たちが2組に分かれ、ラジオ体操の音楽に合わせ、一心不乱に踊るのです。表情を変えずに躍り狂うその様は、まるで新興宗教の一種のようにすら思われました。そして、一曲踊り終わる度にパートナーからのダメ出し、教官の講評、それを日に何度も繰り返すのです。

   僕はラジオ体操が下手でした。小さな頃からラジオ体操などマジメにやったことがありません。それが23歳にもなっていきなり「正しいラジオ体操」を求められたのです。おまけに、ラジオ体操について定年間近の教官といい歳をした社会人が、ラジオ体操の所作1つ1つについて語り会う、そのシュールな風景に笑いをこらえきれませんでした。教官の怒りの矛先は自然と僕に向くようになりました。時には僕1人を全員で囲み、孤独にラジオ体操を踊らされ、ボロクソに貶され、人格を否定されたこともありました。結局、テストでも僕だけ再三の追試を受けさせられるハメになりました。

   しかし、悪いことばかりではありません。ぼくが身につけたキレキレのラジオ体操は飲み会の席で笑いを取れる一発芸です。僕にも鉄板ネタが出来ました。是非みんなに披露したいです。飲みに誘ってください。